「特定行為研修を受けると、看護師として何ができるようになるの?」
「認定看護師とは違うの?」
「研修を受ければ給料は上がる?」
「興味はあるけれど、仕事をしながら受講できるの?」
看護師として経験を重ねていくと、キャリアアップの選択肢として「特定行為研修」という言葉を聞くことがあります。
特に、救急、集中治療、手術室、外科病棟、在宅医療などで働いていると、特定行為研修を修了した看護師と一緒に働く機会も増えてきました。
一方で、
「医師の代わりに医療行為をする看護師?」
「資格を取れば給料が大きく上がる?」
といったイメージを持っている人もいるかもしれません。
最初に押さえておきたいのは、特定行為研修は新しい国家資格を取得する制度ではないということです。
厚生労働省では、特定行為を、看護師が手順書により行う場合に高度な知識や判断力が特に必要となる「診療の補助」と位置づけています。
2026年9月10日時点では、38の特定行為が21区分に整理されています。
この記事では、
- 特定行為研修とは何か
- 修了すると何が変わるのか
- どんな特定行為があるのか
- 研修期間や学び方
- 給料や手当は増えるのか
- 受講前に確認したい費用と勤務支援
- どんな看護師に向いているのか
を、初心者向けにわかりやすく解説します。
関連記事:看護師が知っておきたい制度・法律・団体の基本|働き方とお金を守る入門
結論:特定行為研修は「看護師としての臨床判断力と実践力を高める研修」
最初に結論です。
特定行為研修は、
一定の診療の補助を、医師・歯科医師が作成した手順書に基づいて行うために必要な知識・技能・判断力を学ぶ研修
です。
厚生労働省は、特定行為研修について、看護師が手順書によって特定行為を行う際に必要となる、実践的な理解力・思考力・判断力、高度で専門的な知識・技能を高めるための研修としています。
つまり、
「できる処置を増やすだけの研修」ではありません。
患者さんの状態を評価して、
「今、この患者さんにこの行為を実施してよいのか」
「手順書で示された病状の範囲内なのか」
「医師へ直接連絡すべき状態ではないか」
と考える臨床判断力も重要になります。

そもそも「特定行為」とは?
特定行為は、看護師が行う「診療の補助」の一部です。
2026年9月10日時点では、厚生労働省が38行為・21区分を示しています。
たとえば、
- 気管チューブの位置調整
- 人工呼吸器の設定変更
- 気管カニューレの交換
- 胸腔ドレーンの抜去
- PICCの挿入
- 直接動脈穿刺による採血
- 橈骨動脈ラインの確保
- インスリン投与量の調整
- 輸液量の調整
- 利尿薬などの投与量調整
などがあります。
すべての特定行為を学ばなければならないわけではありません。
自分が勤務する領域や役割に合わせて、必要な特定行為区分を受講する方法があります。
また、よく行われる行為をまとめて学べる「領域別パッケージ研修」もあります。
特定行為研修を修了すると、医師の指示なしで何でもできる?
ここは特に誤解しやすい部分です。
結論として、
特定行為研修を修了しても、医師と同じように独立して診療できるわけではありません。
特定行為はあくまで「診療の補助」です。
看護師が手順書により特定行為を行うときは、医師・歯科医師があらかじめ作成した手順書に基づき、
- 患者さんの病状
- 実施する行為
- 病状の範囲
- 医師への連絡方法
などを確認しながら実施します。
研修を修了したから、
「この患者さんにはこの処置が必要だから、自分の判断だけで何でも行う」
という制度ではありません。
「手順書」って何?
特定行為研修を理解するうえで重要なのが「手順書」です。
手順書とは簡単にいうと、
どのような患者さん・状態で、どの特定行為を、どの範囲で行うのかを医師・歯科医師があらかじめ示したもの
です。
特定行為研修修了看護師は、患者さんの状態がその範囲に入っているかを評価して特定行為を行います。
厚生労働省も、実際の医療現場における手順書作成や活用のための事例・ガイドを公開しています。

特定行為研修を修了すると「資格」がもらえる?
ここも重要です。
特定行為研修を修了しても、新しい国家資格を取得するわけではありません。
日本看護協会のFAQでも、特定行為研修は国の研修制度ですが、修了して新たな資格を取得するものではないと説明されています。
修了すると、受講した指定研修機関から研修修了証が交付されます。
つまり、
看護師
↓
特定行為研修を受講・修了
↓
「特定行為研修を修了した看護師」
となります。
看護師免許とは別に、新たな国家資格が追加されるわけではありません。
認定看護師・専門看護師とは違う?
特定行為研修、認定看護師、専門看護師は混同されやすいですが、目的が違います。
特定行為研修
手順書に基づき特定行為を実施するために必要な、高度な臨床実践能力を学ぶ研修です。
認定看護師
特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識を用いた実践・指導・相談などを担う、日本看護協会の認定資格です。
専門看護師
特定の専門分野で、高度な看護実践に加え、相談・調整・倫理調整・教育・研究などを担う日本看護協会の認定資格です。
どれが「上」というものではありません。
自分が将来、
- 臨床実践を深めたい
- 特定行為を担いたい
- 専門分野を極めたい
- 教育・相談をしたい
- 看護管理へ進みたい
など、どの役割を担いたいかで選択肢が変わります。

特定行為研修はどうやって受ける?
特定行為研修は、厚生労働大臣が指定した指定研修機関で受講します。
厚生労働省は指定研修機関の一覧を公開しており、2026年にも新たな指定や区分変更が行われています。
研修方法は研修機関によって異なります。
一般的には、
- eラーニング
- オンライン授業
- 集合研修
- 演習
- 実習
- 筆記試験
- 実技評価
などを組み合わせて学びます。
たとえば日本看護協会看護研修学校の2026年度研修では、共通科目259時間に加えて選択した特定行為区分別科目を学び、eラーニング・オンライン授業・集合研修・実習などを組み合わせています。
研修期間は2026年7月から2027年6月末までと、約1年間です。
ただし、これは日本看護協会の例です。
研修期間・受講条件・費用・学習方法は指定研修機関によって異なります。
働きながら受講できる?
働きながら受講する看護師もいます。
eラーニングやオンライン授業を取り入れている研修機関もあるため、以前より学びやすい環境は広がっています。
一方で、特定行為研修は簡単なオンライン講座ではありません。
- 講義
- 課題
- 試験
- 演習
- 実習
などが必要です。
そのため、
「勤務しながら空いた時間だけで取れる資格」くらいに考えない方がよいです。
特に実習では、自施設の協力が必要になる場合があります。
受講前に勤務先と調整しておくことが重要です。

研修費用は誰が払う?
特定行為研修の受講料は研修機関によって異なります。
さらに、
- 受講料
- 教材費
- 交通費
- 宿泊費
- 実習関連費用
などが必要になる場合があります。
勤務先によっては、
- 病院が全額負担
- 一部補助
- 出張扱い
- 研修日を勤務扱い
- 自己負担
など対応が異なります。
教育訓練給付金の対象になる研修もある
特定行為研修の中には、厚生労働大臣が指定する特定一般教育訓練給付金の対象講座もあります。
対象講座を一定の条件を満たして受講・修了した場合、2026年時点では受講費用の40%、上限20万円が支給される制度があります。
さらに一定の条件を満たした場合には、追加給付の仕組みもあります。
ただし、すべての特定行為研修が対象ではありません。
受講を考えている研修が対象講座なのか、支給要件を満たしているのかを、申し込む前にハローワークや公式の講座検索システムで確認しましょう。
特定行為研修を受けると給料は上がる?
お金の面で最も気になるのがここだと思います。
結論として、
特定行為研修を修了しただけで、全国一律に給料が上がる制度ではありません。
研修修了は新たな国家資格の取得ではなく、法律で「特定行為研修修了者には月○万円支給する」と決められているわけでもありません。
そのため、収入への影響は勤務先によって異なります。
たとえば、
- 特定行為手当が支給される
- 資格・職務手当として評価される
- 昇進・役職に反映される
- 配置や担当業務が変わる
- 給与上は特に変化しない
といった可能性があります。
厚生労働省が公開している活用事例には、特定行為研修修了看護師へ月3,000円の手当を支給している医療機関の例もありますが、これは全国共通の金額ではありません。
つまり、
「特定行為研修=給料アップ目的の資格」
と考えるのはおすすめできません。
では、収入面では意味がない?
直接的な手当がない病院でも、キャリア全体で考えると意味が出る可能性があります。
たとえば、
専門性を高める
高度な臨床判断・実践経験が積めます。
配置の選択肢が広がる
救急、集中治療、手術室、外科、在宅など、特定行為を活用する領域で役割を持てる可能性があります。
厚生労働省でも、外科・救急・麻酔・在宅・総合診療など複数領域で、特定行為研修修了看護師の活用ガイドが公開されています。
転職時の経験として使える
特定行為研修修了者を活用している医療機関では、経験や研修歴を評価される可能性があります。
ただし、求人ごとの給与・手当・配置条件を確認する必要があります。
将来のキャリアにつながる
認定看護師、看護管理、教育、在宅医療など、ほかのキャリアと組み合わせて活かす方法もあります。
大切なのは、
「研修費を払えば何年で回収できるか」だけではなく、将来どんな働き方をしたいか
で考えることです。
特定行為研修を受ける前に、勤務先へ確認したい5つのこと
受講を考えているなら、先に勤務先へ確認しておきたいことがあります。
1. 受講費用の補助はあるか
全額・一部・自己負担のどれなのか確認します。
2. 研修時間は勤務扱いになるか
研修日や実習日が、
- 勤務
- 出張
- 有給
- 休日
- 自己研鑽
のどれになるのか確認します。
研修と労働時間については、参加指示や業務との関係によって判断が変わります。
関連記事:看護師の前残業・研修・委員会活動は残業代の対象になる?
3. 実習を自施設で行えるか
自施設で症例を確保できるのか、協力体制があるのかを確認します。
4. 修了後に特定行為を実施できるか
ここは非常に重要です。
研修を修了しても、実際に特定行為を行うかどうかは医療機関側の体制によって異なります。
日本看護協会も、研修修了後に特定行為を実施するかは、それぞれの医療現場で判断されると説明しています。
5. 手当・役割・配置はどう変わるか
- 手当はある?
- 専従・専任になる?
- 通常業務と兼務?
- 活動日はある?
- 人事評価に反映される?
まで確認しましょう。

特定行為研修が向いている看護師
特定行為研修は、全看護師が受講すべき研修ではありません。
たとえば、
「患者さんの状態をもっと深くアセスメントできるようになりたい」
「救急やICUで、より高度な臨床実践をしたい」
「手術前後の患者管理に関わりたい」
「在宅で、必要な処置をよりタイムリーに提供したい」
「今後も臨床現場で専門性を高めたい」
と考えている人には、一つの選択肢になります。
一方、
「とにかく資格を増やしたい」
「給料を上げるためだけに取りたい」
という場合は、研修費や時間に対するメリットを慎重に考えた方がよいでしょう。
2026年は特定行為研修制度の見直しも進んでいる
特定行為研修制度は2015年に始まりました。
そして2025年から2026年にかけて、厚生労働省では制度見直しの検討が行われ、2026年2月3日にワーキンググループの報告書が公表されています。
報告では、2040年を見据え、
- 看護師の能力を切れ目なく積み上げる教育
- より効果的・効率的な特定行為研修
- 特定行為の内容の見直し
などについて検討されています。
ただし、2026年9月10日時点の厚生労働省公式ページでは、現在も38行為・21区分として案内されています。
今後制度が変わる可能性もあるため、受講を検討するときは必ず最新情報を確認しましょう。
特定行為研修を受けるか迷ったら
まず、
「なぜ特定行為研修を受けたいのか」
を考えてみましょう。
「周りから勧められたから」
「キャリアアップになりそうだから」
だけでは、長い研修を続けるモチベーションを保ちにくいかもしれません。
おすすめなのは、
今の仕事
↓
身につけたい能力
↓
将来やりたい役割
↓
そのために特定行為研修が必要か
という順番で考えることです。
研修はゴールではありません。
研修修了後に、どのような看護をしたいか
まで考えて選ぶことが大切です。
関連記事:看護師におすすめの参考書籍ガイド|お金・資格・看護研究・キャリア別に紹介
まとめ
特定行為研修は、看護師のキャリアアップの一つとして注目されています。
ただし、
「研修を修了すれば医師と同じように処置できる」
「新しい国家資格がもらえる」
「必ず給料が上がる」
という制度ではありません。
この記事のポイントをまとめます。
- 特定行為は「診療の補助」の一部
- 2026年9月10日時点では38行為・21区分
- 手順書に基づいて特定行為を実施する
- 高度な知識だけでなく臨床判断力を学ぶ
- 研修修了で新たな国家資格を取得するわけではない
- 指定研修機関で受講する
- eラーニング・集合研修・実習などを組み合わせる
- 費用・期間は研修機関によって異なる
- 教育訓練給付金の対象講座もある
- 給料や手当への反映は勤務先によって異なる
- 修了後に特定行為を実施できる体制があるか確認することが重要
- 2026年現在、制度見直しも進められている
特定行為研修は、決して小さな自己投資ではありません。
時間も費用も必要です。
だからこそ、
「取れるから取る」のではなく、「自分が将来やりたい看護につながるから学ぶ」
という視点を持つことが大切です。
まずは、自分の病院で特定行為研修を修了した看護師がどのような働き方をしているのか確認してみてください。
もし受講支援制度があるなら、
「費用はどこまで病院が負担するのか」
「研修日は勤務扱いになるのか」
「修了後にどんな役割を担うのか」
まで確認してから判断すると、後悔しにくくなります。
関連記事:看護師が知っておきたい制度・法律・団体の基本|働き方とお金を守る入門
関連記事:看護師の前残業・研修・委員会活動は残業代の対象になる?
関連記事:看護師におすすめの参考書籍ガイド|お金・資格・看護研究・キャリア別に紹介
注意書き
本記事は2026年9月10日時点の厚生労働省・日本看護協会等の公表情報をもとに、特定行為研修制度の一般的な理解を目的として作成しています。
特定行為の内容、研修制度、受講条件、費用、教育訓練給付制度、勤務先での手当・配置等は変更される可能性があります。
実際に受講を検討する場合は、厚生労働省、指定研修機関、勤務先の人事・看護部等から最新情報を確認してください。
参考情報・参考サイト
- 厚生労働省:特定行為に係る看護師の研修制度
- 厚生労働省:特定行為とは
- 厚生労働省:特定行為区分とは
- 厚生労働省:特定行為研修とは
- 厚生労働省:指定研修機関等について
- 厚生労働省:特定行為研修修了者の活躍について
- 厚生労働省:看護師の特定行為研修制度見直しに係るワーキンググループ報告書
- 厚生労働省:教育訓練給付金
- 日本看護協会:特定行為研修制度
- 日本看護協会:特定行為研修に関するよくあるご質問

